初めてのお客様 安西理彩様

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 今日は人生で最高の日、そして最悪の日だわ。  理彩は重たい気持ちを抱えながら、いつもの家路をとぼとぼと歩いていた。紺色のワンピースに、首元にはパールのネックレス。手には小さなバッグと紙袋。  今日は理彩が仲良くしている友達の結婚式だった。それも唯一最後の独身仲間の結婚式。つまり理彩の周りは既婚者で埋まってしまったのだ。  新婦のえりこは高校の仲よしグループの一人で、とくに一番仲が良かった。どんどん周りが結婚していく中、二人で一緒に婚活に励んでいた。三十歳までには結婚したいね、そんな目標を掲げて毎週婚活パーティーから街コン、飲み会に友人の紹介。  活動しない日はジムで体をしぼったり、料理をしたり、良い映画や本を見ては心の教養を。プライベートのほとんどを婚活に捧げて、二年近くが経っていた。何度も疲れ果て投げ出しそうになったけど、頑張れたのはえりこが居たからだった。  たまには二人で息抜きをして、パワーを溜めてまた活動に励む。でもそんなえりこに半年前、運命の出逢いが訪れる。飲み会で旦那さんになる人と出逢ったのだ。それからは早くてトントン拍子で結婚が決まり、今日の式が行われた。 「すごく綺麗だったなぁ……」  えりこが幸せそうで嬉しい、でもこれで独身は自分だけになってしまった。家に帰れば母親から何かしらの嫌みを言われるのは分かりきっていた。  しかし最悪なのはそれだけじゃない。まさかの新郎の友人席に元カレの姿を見つけたのだ。お酒も入り機嫌の良さそうな元カレは、何事もなかったかのように理彩に話しかけてきた。そして気づいてしまった。左手薬指に指輪があることに。 「はぁ……ん?」  そんな時たまたま向けた視線の先に、ほわっとオレンジ色の灯りを見つけた。看板の隣に黒いランタンが暖かな明るさを出していた。
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