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* * *
固くひんやりとした感触から、皮膚の体温が奪われ怜は目覚めた。
「ん……」
(ここは?)
さっきまで寝ていた所とは明らかに違う身の状態に、気が動転した。
軽く頭を振り目覚めを促しながら、目を開ける。
俯いていて開けた怜の視界には自分の裸の姿があって、ゆっくりと顔を上げると……目の前には明が居た。
「な、なに?」
初めての行為で少しかれた喉から声を上げると、その声は奇妙な響きを奏で驚いた。
怜の重い瞼がしっかりと開いた頃、漸く自分が置かれている状況が理解できた。
怜は風呂場で、全裸で、浴槽に付いている半身浴用の中座に、何時の間にか座らされているらしい。
浴槽は空で、目の前には服を着た明が、立膝付いて怜を支えている。
リッチなマンションらしく大きく贅沢目な風呂だったけれど、男二人が入り込んでいる浴槽で、明は出来る限り身を縮めているようだ。
手には濡れタオルを握り締めて。
「気が付いちまったか……」
明がアチャーという顔そのままの間抜けな声を出した。
「…そりゃ、気付くだろ」
自分の姿を何故か他人事のように感じながら、起きたての怜も間抜けな声で答える。
「アキラ、何してんの」
「いや、レイの体拭いてやろうと思ってさ」
「ふーん」
有難うと答えて良いのかどうか判らず、怜は気の抜けた返事をする。
怒りの色はない怜に安心できる明の筈なのに、気まずそうなまま怜の体を拭きだした。
怜は優しく身体を拭く明のなすがままになり、力の入らない身体を明に預けている。
「アキラは?」
「あぁ、俺はさっき風呂入った」
「僕は、タオル?」
「だってお前寝てたし……」
怜は首を捻った。じゃぁ寝かせたまま拭いてくれりゃ、目を覚まさないでいてられたかもしれなかったのに。
なぜ風呂にまでつれて来られているのだろう。
「もう起きてるじゃん。シャワーかけてよ」
身体を拭かれかなり気持ち良かったが、もっとさっぱりしたかった。
気だるい腕を上げる気は起こらず、怜は明に目で訴えた。
「あぁ……後でな」
明は罰の悪そうな顔のまま、怜の身体を黙々と拭いた。
風呂という場所のせいか,いまさらなのか、怜は裸という自分の姿に羞恥心も沸かず、体を拭かれていた。
不意に明は手を止めた。
「終わった?」
「あぁ」
「アキラ、どうした?」
シャワーを待つ怜の前で、明は手を止めたまま動きも止まる。
「レイ、ゴメン!!」
明の突然の大声が、風呂場のエコーでこだました。
「な、なんだょ?」
「レイ、マジごめん」
「ただ謝られたって、訳わかんないよ」
「あ、あのさ、」
怜が少しイライラし険しい表情をむけると、明はゆっくり口を開いた。
「お前と初めてシてさ……俺、ホント嬉しかった。こんな気持ちになったの初めてでさ……」
「?」
「でさ、嬉しすぎて、舞い上がりすぎて、ゴム付けるの忘れて……外で出す余裕無くってさ」
明は中指で眼鏡を押し上げた。
「その……中で出しちまったんだ」
明のあからさまな言葉に、さっきまでの行為を生々しく思い出し怜の顔に朱が走った。
「何言ってんだよ……そんな事言われなくったって」
身体の中に明の熱を感じた。言われなくても判っている。怜は赤らんだ顔のまま、明を睨みながら答えた。
「あのさ、勉強して知ったんだけど……」
明は真顔のまま、怜の見たことのない液体を指に塗り、徐に右手を怜の股間に滑り込ませた。
驚いた怜の身体が跳ねる。
「ここから、出さなきゃ、」
液で濡れた指で怜の後孔を申し訳なさそうに明が突付く。
「レイの具合悪くなるらしいんだ……ごめん!」
再び怜の中に、生き物の様な明の指が割り入った。
「!?や、ヤッ!」
再び襲う突然の感覚に怜は驚愕した。咄嗟に明の肩を掴む。
止めてくれといわんばかりにTシャツを引っ張る。
けれど、明の指は再び怜の奥へと入り込んだ。
「はぁっ……ャ、ヤだ、やめてくれ、もう、いいから」
怜は腰を浮かせて明の指から逃れようとするが、浴槽の中で痺れた足がつるつる滑る。
「ぁっ……バ、バカアキラ!」
憎たらしい明の胸を力の入らない手で叩き続けた。
「ゴメン! ゴメン!」
明は呪文のように謝りの言葉を、怜の耳元で繰り返す。本当に悪いと思っている顔で。
けれど真顔のまま、掻き出す指は真剣で止められはしなかった。
液体にまみれた指が動くと水っぽい音が徐々に漏れ、微かに浴室に響いた。
怜は明の首にしがみついた。
「んっ、アァッーーーーーーッ!」
怜の身体がガクガクと震えた。
くちゅっという小さな最後の音をたて、明の指が引き抜かれ怜はへたりこんで再び浴槽に腰をつける。
明の胸に顔を埋め、息を弾ませている怜の髪にキスをして、明は視線を落とした。
「ァキラ、」
怜に服を再び引っ張られ、明は我に返った。
明は自分が放ったものが掻き出され、怜の局部から太腿を伝いドロリと出る様を見て、意識を飛ばしてしまっていた。
怜の潤んだ目で見つめられ、頭の線が切れそうになったけれど、このまま欲望に突っ走れば今日初めての日が一生で最後になってしまいそうな気がして、優等生の理性が崖っぷちで押しとどめた。
「あ、あぁ」
クラクラする頭を覚醒させながら、明はシャワーを掴み怜の局部から太ももにむけ蛇口をひねった。
低い水温に怜の身体がびくつき、大腿の筋肉が収縮した。明の理性がまた失われそうになる。
やがて暖かい飛沫が、明の精液と怜の汚れを流し去ってゆく。
明は水流と共に消えてゆく体液を、複雑な思いで眺めた後、怜の身体を洗い流した。
心地よさに徐々に顔が和らいで来た怜を抱えながら全身シャワーをかけてやった。
怜を洗い終え、抱き上げようとした時、三度怜に引っ張られ、明は気が付いた。
「あ……」
忘れてた、服を着たままだった事。
尋常ではないテンパり様。
濡れた服を慌てて着替えて来た明に、怜は全身タオルで包まれた。
膨れっ面の怜の怒りも一緒に拭うかのように、明はワシャワシャと小気味良く怜の身体を拭いた。
新しいバスタオルに包まれた瞬間、怜は抱え上げられた。
怜には抗う元気も力も残っていなかった。
「入っていいか?」
寝室の前で、明が胸の中の抱きかかえている怜に問い掛ける。
明は怜の家に日参していたけれど、他の部屋には入った事が一度も無かった。
怜に入るなと言われていたわけではない。
明自身にも理由はわからないけれど、他人を踏み込ませない怜の心の中の見えない線引きを感じていた。
「入らなきゃ、寝られないじゃん。早く、寝かせてくれよ」
怜の許しを得て、明はドアを開けた。
ベッドと勉強机だけ。
リビングと同じ様に、何も無く殺伐とした寝室。明がなんとなく想像していた通りの部屋だった。
ベッドに怜をゆっくりと寝かせてやる。
怜は力の抜けたまま、物のようにドサリと鈍い音を立てながら、ベッドに沈んだ。
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