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-ねじれ-
明 怜 藤本
時間軸:大1夏
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「あー!何でスタート切っとかないんだ!バカ!」
グラスが揺れた。ビールの泡が踊る。怜はテレビに向かって真剣にブチ切れていた。
普段とは様相の違う声が部屋に響く。
何時よりも真面目な怜の横顔を見て、明は微笑んだ。
明はソファに寝転がり、怜はその前の床に座りソファを背凭れにし、二人してナイターを観ている。
特別講師怜の生解説で、明は野球の指導を受けていた。
去年、一緒に予選を観に行ったときに強烈に感じた事だけれど、怜は別人のようで活き活きとしている。
『こいつの生きる場所はここなんだ』と明は改めて思った。
そんな熱心に語る怜の話を聞くのは、掛け値なく楽しいと明は感じる。
普段何もやる気が無い怜だけれど、テレビの向こうの出来事に目一杯一喜一憂する姿は、見ているだけで明を幸せにしてくれた。
ちらりと怜の肘に明は目を遣る。サポーターが何より先に目に飛び込んでくる。
一日も早く治してやりたい。その夢は漠然としすぎていて、夢物語の様な気もする。
医者への入り口にも立っていない明にはまだ判らなかった。けれど、明の本気の夢だ。
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