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大学に行き始めて、早数ヶ月。
怜の環境も周囲も、とにかくがらりと変わった。
知らない者だらけのキャンパス。
――何より、明のいない学校生活。
怜は全く馴染めなていない。人見知りモードも爆発している。
それは現在進行形で、今でも同じ学部の奴等とまともに口を聞いたことがない。
四年後には少しは打ち解けられるような気もするが、今はまだまだ無理だ。
大学まで行くと流石に、怜のファンと称する御執心な面々や,野球部仲間のような信者も居なかった。
投げていた頃は随分ちやほやされ,甘やかされ、我が侭一杯で高校2年まで暮して来たが、そういう環境はほぼ無くなった。
怜はそんな自分の存在の希薄さに、何故だか心地よさを感じていた。
けれど、生まれてきて今までになく楽しいといえた高校3年の1年間を経験してしまった今。大学生活は想像以上に孤独でつまらない日々だった。
それでも何とか学校に通えているのは、藤本が同じ学部に居てくれるおかげだ。
学校内では、藤本と居るか,独り。
大学に進んだのも、別に学びたい物が有ったからではないので、単位の選択なんていうのも怜にとってはどうでもよくて。
授業も適当に藤本に合せて取った。
高校3年の始めの頃に戻ってしまったように、周囲に心を閉ざした怜を、藤本は咎めず理解してくれているみたいで、いつもふんわりとした空気で包み,側に居てくれる。
色気丸出しで怜に近づく女からも、嫌みなく柳に風で躱して自分を守ってくれる藤本に、怜は癒されている。
悪魔のような姉妹に挟まれ育った怜にとって藤本は、小さい頃少し夢見た優しい兄弟の様な感覚を覚えた。
ソファに置かれた明が持ち込んだ難しいタイトルの教科書を積み重ね、枕にしながら怜は学校では見られなくなったキッチンの後ろ姿を見つめる。
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