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「レイ、いつも ”別に” とかいうけどさ……何か有るんだったら、何でも俺に言ってくれよ。離れてるから、心配なんだ」
明が素麺をすすりながら怜に問い掛ける。
「何も言うこと無いよ。大丈夫だってば」
「そうか」
「藤本居るし」
「……」
明が沈黙を作った。柔らかい麺を思い切り噛み切っている。
「藤本、好きか?」
「当たり前のこと聞くなよ。あんな優しくて良い奴、そうは居ないだろ。何で?」
「ごめん、俺、どうかしてる……今、藤本にまで嫉妬してる」
明は真顔で答えた。怜は箸を止めた。
息がかかりそうな距離で顔を見合わせ、時が止まる。
怜は明に見つめられ、鼓動が早まる。
以前から少しずつおかしいと感じてきた心の部分が、日に日に大きくなっている。
「藤本に?アキラ、何言ってんだ?」
「そうだな、俺、おかしい。判ってんだけど……お前と藤本が二人でつるんでたって、どう見てもかわいい女子高生ノリにしか見えねぇし、判ってんだけどな」
明は器から手を離し、頭を抱え始めた。
藤本は怜より一回り大きい位で、余り体型も変わらない。童顔に柔らかい雰囲気から、怜と二人がじゃれている姿を見て「あいつらが一緒に居ると、女子高生みたいで可愛いな」と高校時代相川や加藤と良くふざけて言っていた。
女子高生と言う言葉にカチンと来た怜はつっこもうとしたが、明の余りに深刻で真面目な様子を見て、言葉を飲む。
暫くの沈黙の間、二人とも再び素麺を食べ始め、部屋には麺をすする音だけが聞こえた。
「帰るわ……」
洗い物を終えてから、明は元気なく帰り支度を始めた。
立ち上がった明の腕を、怜は無意識に掴んだ。
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