藍色 時間軸:大1初夏

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    「ど、どした?」   いつに無い怜の突飛な行動に明が驚き、腰を屈め身体を止める。 怜は自分が出した手の訳に、戸惑ったまま明を見つめた。 自ら掴んだ明を見据えたまま、怜は一分ほど考えて見たけれど、答えは出なかった。 「そんな可愛い顔して見つめ続けんなよ。たまんなくなる……」 明は苦々しい表情を浮かべた後、膝をつき怜を抱き締めた。 明に怜が抱き締められたのは、卒業式以来だ。 久しぶりの感触に怜は気付いた。   明の腕の中にいると、何ヶ月かで溜まった不安や、心の中で起こるゾッとする嫌悪感の元や、グダグダになっていたものが膿を切り出された様に、心から這い出ていった。 けれど、襲われて明の家に駆け込んだ日、手を繋いでもらった時の気持ちとは違う。 この気持ちがら離れていても明の気持ちが自分にある安心感か、何にも負けない優越感か、変わった環境で強がっては居ても自分が情緒不安定になっているのか。 どれが正解だか判らないけれど (……僕は、)  「アキラにこうして欲しかった」    心の中と同調し、怜が声に出した言葉は、明の耳にもはっきり届いた。   「レイ、俺は、こうするのが怖かった……」 「え?」 「カギ貰って本当に嬉しかった。浮かれてここに来たけど、すぐに気付いた。こんな所でレイに触れたら、もう歯止め利かないって。  毎日来ずにはいられなかったけど、毎日自分が怖かった……」    抱き締められている力が緩まったのを、怜は肌で感じた。   「お前はこれで満足だろ?でも俺はもう、そういう訳には行かなくなってしまってるんだ」 怜の肩に手をかけ、明はゆっくりと身を離す。 「ずっと側に居た時は、まだ余裕あったんだけどな。離れてから駄目だ、俺」 明は笑った。泣きそうな顔で。 明の顔を見て怜の心が、さっきの何十倍もチクリチクリと痛んだ。 「……レイ?」   明が固まる。 離れた明の髪にゆるゆると手をかけ、怜は明に口付けていた。 慣れていないそれはぎこちなく、たどたどしいけれど。 「アキラ……いいよ」 「いいって?」 「だから、いいよ」 「それって、あん時みたく」 「ちがう、大晦日の時の気持ちとは、違う。違うよ」 「ほんとに……」 「しつこいな、何度も言わせんなよ」 二人、額をくっつけ合ったまま押し問答する。 「帰るわ」 明は再び立ち上がった。 「?」 「すぐ戻って来る」 怜の額に音を立ててキスをした後、明は脱兎の如く部屋を飛び出していった。 明の行動がサッパリ判らず怜は、額に熱を帯びた感触を残されたまま ポカンと部屋に取り残された。    
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