藍色 時間軸:大1初夏

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*  *  *   「……イ、」 「んだよ」 身体を無粋に揺すられ、不機嫌にその手を払う。   「レイ!」 「ぁ?」   怜は頬を軽く叩かれ漸く目が覚めた。   「僕……」 「急に出て行ったのは悪かったけどさ」 怜の目の前には、ため息を吐いた明の顔が有った。   *  *  * 明が部屋を飛び出し、訳も解らず独り取り残された後、怜は明の指定席、ソファに身を投げた。   自宅の空き部屋に押し込められいた物で、怜はお気に入りで第二のベッド代わりにしていた。 背凭れが可動しベッドにもなるそれは、大きすぎて家族に邪魔扱いされていたから一緒に持ってきた。 いつも明が陣取っているため、自分の物だけれど久しぶりだった。懐かしい感触を肌に感じながら、ソファに寝そべる。 ”触れるのが怖かった” と明は言った。怜はそんな事、さっき言われるまで露とも知らなかった。 明の教科書を枕にし、天井を見上げる。いつも明がしているように。 真っ白い天井を見つめ、怜は真面目に考えてみようと思った。 人の気持ち というものを。     ――出会った頃から変わらず、いつも明は優しく明るくて。 卒業してから今日までも変わらない。   だけどそれは、怜の為に精一杯してくれていた平静の顔で……今日見た本心の表情は、苦悶に満ちていた。 怜は泣きそうに笑った明のあんな表情は、今まで見た事が無かった。 その顔を天井に浮かべると、怜の胸は軋んだ。  明に触れられると怜は心地良い。 無性に触れられたくなる。触れられると安心する。 けれども、もうそれだけでは……… (アキラを苦しめる)   怜は天井に向かって掌を伸ばし、息を吐いた。 (アキラは今まで、何を思いながら、この天井を見てたんだろう。どんな気持ちで僕に接してたんだろう。何を……どんな……)   *  *  * 「あ、」    怜は思い出した。 真剣に考えようと思い、考え始めたのに……知らない間に 「ごめん、寝ちゃってた」 怜は意識はまだ睡魔と現実の狭間で、ぼんやりしながら呟いた。 「起きたか?」 「あぁ。また、寝ちゃってたんだ……」   明の問いかけに、ゆっくりと記憶が回復する。 ――前もそうだった。 告白された日。 相川と明のことを考えなければいけないと、本気で思ってたのに。 気がつくと、明が家に来るまで寝てしまっていた。   「眠い?」 明が心配顔で怜を覗き込む。 「大丈夫だよ。ただウトウトしてただけだって」 怜は視線を逸らしながら、ぶっきらぼうに答える。   「ところでアキラ、いきなり飛び出して何処行ってたんだよ」   微かにまだ肩で息をしている明の様子を、怜は横目で盗み見た。 「え……あ、あぁ、要るもん、ちょっとな」   いつも明朗な明にしては珍しく、気まずそうな笑顔を浮かべながら口篭る。 ソファが沈んだ。 怜が不思議に思う暇も無く、明が半身を乗せて来た。 重みで歪む度、クッションの鈍い音がする。   明の指が弱弱しく怜の頬に触れる。 途端、明は項垂れた。 「どうしたんだ?」 「すげ、久々で……触んの……何か、もう」 怜の唇を指でなぞりながら、明は静かに打ち震えていた。 下唇を軽く押し、怜の口を緩ませ明は口付けた。          
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