37人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「……イ、」
「んだよ」
身体を無粋に揺すられ、不機嫌にその手を払う。
「レイ!」
「ぁ?」
怜は頬を軽く叩かれ漸く目が覚めた。
「僕……」
「急に出て行ったのは悪かったけどさ」
怜の目の前には、ため息を吐いた明の顔が有った。
* * *
明が部屋を飛び出し、訳も解らず独り取り残された後、怜は明の指定席、ソファに身を投げた。
自宅の空き部屋に押し込められいた物で、怜はお気に入りで第二のベッド代わりにしていた。
背凭れが可動しベッドにもなるそれは、大きすぎて家族に邪魔扱いされていたから一緒に持ってきた。
いつも明が陣取っているため、自分の物だけれど久しぶりだった。懐かしい感触を肌に感じながら、ソファに寝そべる。
”触れるのが怖かった”
と明は言った。怜はそんな事、さっき言われるまで露とも知らなかった。
明の教科書を枕にし、天井を見上げる。いつも明がしているように。
真っ白い天井を見つめ、怜は真面目に考えてみようと思った。 人の気持ち というものを。
――出会った頃から変わらず、いつも明は優しく明るくて。
卒業してから今日までも変わらない。
だけどそれは、怜の為に精一杯してくれていた平静の顔で……今日見た本心の表情は、苦悶に満ちていた。
怜は泣きそうに笑った明のあんな表情は、今まで見た事が無かった。
その顔を天井に浮かべると、怜の胸は軋んだ。
明に触れられると怜は心地良い。
無性に触れられたくなる。触れられると安心する。
けれども、もうそれだけでは………
(アキラを苦しめる)
怜は天井に向かって掌を伸ばし、息を吐いた。
(アキラは今まで、何を思いながら、この天井を見てたんだろう。どんな気持ちで僕に接してたんだろう。何を……どんな……)
* * *
「あ、」
怜は思い出した。
真剣に考えようと思い、考え始めたのに……知らない間に
「ごめん、寝ちゃってた」
怜は意識はまだ睡魔と現実の狭間で、ぼんやりしながら呟いた。
「起きたか?」
「あぁ。また、寝ちゃってたんだ……」
明の問いかけに、ゆっくりと記憶が回復する。
――前もそうだった。
告白された日。
相川と明のことを考えなければいけないと、本気で思ってたのに。
気がつくと、明が家に来るまで寝てしまっていた。
「眠い?」
明が心配顔で怜を覗き込む。
「大丈夫だよ。ただウトウトしてただけだって」
怜は視線を逸らしながら、ぶっきらぼうに答える。
「ところでアキラ、いきなり飛び出して何処行ってたんだよ」
微かにまだ肩で息をしている明の様子を、怜は横目で盗み見た。
「え……あ、あぁ、要るもん、ちょっとな」
いつも明朗な明にしては珍しく、気まずそうな笑顔を浮かべながら口篭る。
ソファが沈んだ。
怜が不思議に思う暇も無く、明が半身を乗せて来た。
重みで歪む度、クッションの鈍い音がする。
明の指が弱弱しく怜の頬に触れる。
途端、明は項垂れた。
「どうしたんだ?」
「すげ、久々で……触んの……何か、もう」
怜の唇を指でなぞりながら、明は静かに打ち震えていた。
下唇を軽く押し、怜の口を緩ませ明は口付けた。
最初のコメントを投稿しよう!