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「いいんですか?最後まで聞かなくて」
「今日1日で1万件以上さばかないといけないんだよ。いちいち全部最後まで聞いてたら回んないよ。それにかれぴって何だよ。うざっ!」
叶の問いに対して、困った顔で望は答える。そのとき叶のモニターの音が鳴った。
ーー3度目の正直。今年こそ、今年こそ東大に……
「東大合格なんていうデカい願いごとはこの小さな神社では判断できませんね。はい」
切実な受験生の願いの途中で、叶は「稟議」のキーを押した。蛍雪神社は学業成就課に属しているので、東大合格は確かに管轄内の願いごとだ。しかし、望や叶のような下っ端神様の決裁権は職務規定上限られている。ハードルの高い願いごとを独断で叶えることは不可能なのだ。
「まぁ、頑張ってるのも分かるんですけどね……」
叶がそう言うと、今度は望のモニターの音が鳴る。願いごとの主は30歳くらいの男性だ。
ーー今年こそ、さらにワンランク上の研究論文が書けますように。
「医学部博士課程の論文か。稟議稟議!そんな上級の願いごとについての決裁権なんて、俺らにある訳ないだろ!」
望はそう言うと稟議のキーを押した。
激流のように流れてくる願いごとをスピーディにさばいていくこと5時間。やっと人の流れが落ち着いて来た。
「少し休憩しませんか?」
叶がそう言うと、望は頷いてコーヒーを準備し始めた。
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