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冗談じゃないよ。わたしが欲しいのは「でらスッパイ棒」だ。他のものでだまされるもんか!
愛想が良い店員さんの目はマジだ。笑っていない。
買って行ってくれ、お客さん頼むから。「でらスッパイ棒」はないけれど、他の品はある。売上げが欲しい、あとほんのちょっとで今月は赤字を脱することができる。こんな天気じゃ他に来客はないだろう。アンタが貴重な最後の客だ。
「なんなら、今買い物をされたら、すべての品物を半額にしますよ」
店員さんはぎらぎらした目で言った。
その時わたしの脳内には、本当に欲しかったものではなく、なにか理由をつけて別のものを与えられて無理やり納得させられた、色々な場面が走馬灯のように巡っていた。きゅぴーん。体内に走るパトス。赦すことはできない。半額だろうが無料だろうが、そんなものが欲しいんじゃない。
わたしは騙されない!
うおりゃあいええい。
店員さんの手を振り切ると、わたしはコンビニの自動ドアに激突した。
使用禁止のドアは、わたしの渾身の突撃でばりんと割れた。途端に水がどどどんと雪崩れ込み、映画「タイタニック」みたいな状態になった。
もはや振り返ることすらできない。
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