11人が本棚に入れています
本棚に追加
歯を食いしばってわたしは泳いだ。激流に逆らい、滝登りをする魚のようにぶるんぶるん手と足を回転させて前進した。
このコンビニが駄目なら次の店を探すまでだ。
ぷはあ。
流れの上に顔を出して息継ぎをする。雨は相変わらず激しいままだ。
どんぶらどんぶらと色々なものが流れてゆく。わたしは一瞬、ひよった。もう「でらスッパイ棒」など食べられないのではないかと思った。そして、そんなものを食べるために家を飛び出した自分はやはりバカなのだと思った。
(どうしようもない人生だ)
そう思った時、さく裂するような水飛沫を上げて横ぎるものがいた。
衝撃を受けた。一人の可憐な少女が、まなじり吊り上げて激流の中を泳ぎ渡ってゆくのが見えた。
うぅおりゃああ。気合の入った声もすさまじい。
少女は一体どこから来たのか、どこに行くのか、こんな天気の中を。
だけどわたしは、彼女の気持ちが理解できるような気がした。行かずにおれなかったのだろう、少女も。
モーターボートのような勢いで泳ぎ去ってゆく少女を見送ると、わたしは自分の中に再び力がみなぎるのを感じた。
そうだ。やるのだ。次のコンビニが駄目なら、また次を探せばよい。やると決めたらやるのだ。
わたしは泳ぎ始めた。
「でらスッパイ棒」のことだけしか、もう、考えられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!