11人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、この最悪な天候の中でも営業している、根性のあるコンビニやドラックストアをいくつか回り、十件目くらいで「でらスッパイ棒」を購入することができた。
それまでこの駄菓子を、ありふれた、どこにでもあるお菓子だと思ってたかをくくってきたが、どうしてどうして、貴重な存在だということが分かった。
店の天井まではしごがかかっており、そこから屋根の上に出た。
町の中でもひときわ高い建物である、そのスーパーは、屋根の部分がまるまる水から出ていた。
わたしはコンクリの屋根を踏みしめると、どうどうと流れてゆく悪魔のような濁流を見渡した。
買ったばかりの「でらスッパイ棒」を片手に、仁王立ちになって、この百年に一度という大惨事を眺めた。
見れば見るほどひどい有様だった。こんな中、自分はよくここまできたと思った。
凄まじい達成感である。体は疲れていたが、心は満たされていた。
気が付けば雨は小降りになっており、あんなに真っ暗で稲妻が走っていた空は、すこしずつ明るくなってきていた。
しゃっと包み紙を破ると、「でらスッパイ棒」に、むしゃっとかぶりついた。
旨かった。これこそ求めていた味だった。食べたかったものを食べることができるということは、なんという奇跡だろう。
そしてわたしは、その奇跡を自分で掴み取ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!