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「やったよ。かーさん、ねーちゃん、わたしはやったよ」
もしゃりもしゃりと食べているうちに、だばだば涙があふれた。
それは心地よい涙だった。思う存分流したあと、ふっと強烈な要求が込み上げた。
帰りたい。うちに。人生に。自分のいるべき場所に。
(泳ごう、もう一度。そして帰ろう。あの人たちのところに。自分の生きる場所に)
もう流されて消えたかもしれない、だから危険を冒して泳いで行っても無駄だよ――今までのわたしなら、そう考えただろう。けれど、「でらスッパイ棒」を食べたわたしは、過去の自分と決別していた。
無駄とか、できないとかではない。やるのだ。
そう、決めるだけだ。
「待ってろよ、かーさん、ねーちゃん」
つぶやくと、わたしは水の中に身を投じた。
泳げ。求める場所まで泳ぎ切るのだ。
うおりゃああああ。ばちゃばちゃ。
水飛沫をあげ、バタフライで前進。
ふっと視界に、鮮やかな虹が映った。
雨が、上がろうとしている。
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