今から帰る。

14/14
前へ
/14ページ
次へ
 「やったよ。かーさん、ねーちゃん、わたしはやったよ」  もしゃりもしゃりと食べているうちに、だばだば涙があふれた。  それは心地よい涙だった。思う存分流したあと、ふっと強烈な要求が込み上げた。  帰りたい。うちに。人生に。自分のいるべき場所に。  (泳ごう、もう一度。そして帰ろう。あの人たちのところに。自分の生きる場所に)  もう流されて消えたかもしれない、だから危険を冒して泳いで行っても無駄だよ――今までのわたしなら、そう考えただろう。けれど、「でらスッパイ棒」を食べたわたしは、過去の自分と決別していた。  無駄とか、できないとかではない。やるのだ。  そう、決めるだけだ。  「待ってろよ、かーさん、ねーちゃん」  つぶやくと、わたしは水の中に身を投じた。  泳げ。求める場所まで泳ぎ切るのだ。  うおりゃああああ。ばちゃばちゃ。  水飛沫をあげ、バタフライで前進。  ふっと視界に、鮮やかな虹が映った。  雨が、上がろうとしている。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加