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今のわたしにとって、「でらスッパイ棒」は神の食べ物である。美徳が集結したら、あの駄菓子になるのではないかと思えるほどだ。「でらスッパイ棒」万歳。食べたい食べたい。体が欲しているというより、心が、人生があの駄菓子を欲している。
雨が降ろうが槍が降ろうが。
いよいよ外は本降りになったらしい。ざあああ。まるでバケツの水をひっくりかえしたみたいな豪雨だ。
このおんぼろアパートなんか壊れちゃうんじゃないかと思っていたら、ばたっ、ばたばたっと不吉な音がした。
振り向いたら、居間の天井が雨漏りしていた。老いても元気な母が、「ぎゃあ雨漏り、なにやってんのよぼうっとしないで」と金切り声をあげながら、ふろ場の桶を持ってきた。赤いエプロンから覗く痩せた脛が、がにまたでばたばたと駆けまわる様は、茶色いカマキリみたいだ。
いやーすごいなあ、なにこれ、と言いながら、たまたま今日仕事が休みで朝からだらだらしている姉がやってきた。部屋で寝ていたのだろう、スエットのままだ。ぼうぼうの髪の毛を適当にまとめて、肌荒れを隠しもしない。
母が雨漏りで大騒ぎしている横をすり抜け、ちゃぶ台のところでしゃがむとリモコンを取り上げた。
ぷつ。テレビの電源が入る。天気予報らしい。
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