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百年に一度の大災害の可能性があります。大雨警報もとい、超大雨特大警報。避難しようとして家から出たら、押し流されてしまう可能性があります。助かろうともがくことは返って命を縮めますから、浸水しようが建物ごと流されて行こうが、絶対にお家から出ないでください。
繰り返します。百年に一度の……。
男性アナウンサーの声が、やけに淡々と流れている。なにかのバラエティ番組か。全然笑えない。
とにかく今、たった今、まさに今、わたしは「でらスッパイ棒」が食べたいのだった。壁に掛かっているパーカーをはおり、ポケットに財布が突っ込まれているのを確認すると、無言で玄関に向かった。
居間を出た時、乾いた声で母が、あんたなにやってんのと言った。
なにやってるも何も、今から最寄りのコンビニで駄菓子を買おうとしているんだよ。何か文句があるのか。
「あんた死ぬよー」
姉がもぐもぐと何か食べながら言った。
やけに冷淡で、上から目線な声音である。会社ではキャリアウーマンとしてバリバリ第一線で働いていて、どうやら優秀な人材らしい。昔から姉はわたしを見下すところがある。成績優秀、運動もそこそこ、コミュニケーション能力もまあまあ。ぐずぐず友達から取り残されて、自分の思いもろくに言えずに今まで生きて来たわたしのことを、姉は心底馬鹿にしている。
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