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ぱちぱちと、姉は次々にチャンネルをかえた。どこの番組も天気予報みたいなことをやっていて、どのキャスターも、百年に一度の大災害だから、生きているだけでラッキー、死んで当たり前、助かろうとしたら逆に命が縮まるので一秒でも長くこの世に留まりたいなら家から出るなと言っている。
ざー。
心なしか、外の雨音が強くなったような。
「わたしはただ、『でらスッパイ棒』が食べたいだけなの」
声が震えた。
わたしはいつだって、自分の希望や本心を、ありったけの勇気を振り絞ることなく口にすることなんかできない。
きっとみんな、わたしが望んでいることなんか否定するに決まっている。こうしたい、と願いを口に出したら、そんな馬鹿なことはやめなさいと引き留められて、結局好きなようにできなくなる。
そんな絶望を味わう位なら、面倒な軋轢を生むよりも黙って俯いて心を閉じている方が、まだ楽。
志望校をちらっと言ったら、母から即座に「やめときなさい。それよりも近い高校が良い」と否定された。
就きたい職業を口にしたら、姉から「そんな地に足の着いていない仕事、夢物語だから。ちゃんと堅実な仕事をしなさいよ」と一蹴された。
そんなことばかりの人生だった。
外食する時、なにを食べたいかと聞かれて食べたい物を言ったとしても、すんなりその希望が通ることは無かった。
えー、とんかつなんかいつでも食べられるじゃん。せっかくみんなで行くんだから、寿司食べようよ、寿司。
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