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「助けてくれ」と叫んでいるので、「自分で切り開け」と怒鳴り返した。その瞬間、泳ぐわたしを見送っていたおっさんの表情に、閃光のような気合が走った。
切り開くんですか、そんなことできるんですか、だってこんな濁流、どうやって抗うんですか。
流されながら、おっさんは犬かきを始めた。泳ごうとし始めたことは評価に値するが、未だひ弱で流され続けている。まだだ。もう一歩だ。わたしは泳ぎながら、視界から消え去りつつあるおっさんに、怒鳴ったのだった。
「できるんですかじゃねえ。やるんだよおんどりゃあっ」
わたしの声が届いたかどうかはわからない。
降りしきる怒涛の雨と、大海の荒波のような流れの中で、既におっさんの姿は見えなかった。
グッドラック。わたしは心で呟いた。泳ぎの手は止められぬ。
行くのだ。コンビニへ。
もう少しだ。ほら見えて来た。あの、心休まる青い屋根。水没しつつも、ちゃんと営業しているじゃないか。
コンビニの屋根までくると、わたしは素潜りをした。ぶくぶくぐぶぐぶ。
コンビニの自動ドアは使用禁止になっている。店の中に入るにはどうしたらよいか。
店内でにこにこと品物を整理している店員さんが、ガラスの外から中を覗くわたしに気づいた。ちょいちょいと上を指さしている。天井から入れと言っているのか。
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