ババアとあたしともの言わぬ彼らと

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18時半。休日に買い物を済ませたあたしは、家までの帰路をゆっくりと歩いていた。こんな時間でもまだ蝉の声がしている。ビニール袋を持った右手には汗がじっとりと染み出していた。数日前の空港でのことを思い出してみる。あたし、救われた。紛れもなく救われたんだ。ふと、この道を父と手を繋いで歩いていた昔のことを思い出した。歩きながら、あたしは3か条の鉄の掟を心に誓った。 一 わたしを生んだのは父と母、あたしを生んだのはババアとユキタ。その感謝。 一 ババアとユキタがあたしより先に死んだら、たとえ記憶喪失で自分を忘れても二人を忘れないこと。その気持ち。 一 絶望の闇があたしを襲う時にこそ、あたしが光になること。その覚悟。  あたしの目の前を野良犬が横切った。ものも言わずのろのろ歩く姿が、汚らしくていとおしい。あたしは街を見渡した。水面に光る反射光のように、すべては愛しさを纏ってきらめいている。夏の夕暮れ。焼けたアスファルトの匂い。オレンジの太陽。そして確かにここに在るあたしのわたし。
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