ババアとあたしともの言わぬ彼らと

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「それと、大切な場所に行くのにあたしが邪魔になっちゃったみたいで・・・それもごめん。お父さんとお母さんとの思い出の場所だったんだね。もうすぐ壊されるんならあたしも絶対今行ったほうがいいと思う。あの、とにかくよかった。今日行けば間に合うんだよね?よかった。ほんとに。あたしね、ユキタはやっぱり優しいんだと思う。あの、言ってることごちゃごちゃなんだけど・・・ 優しいんだなって、思った。あたしは助けられた・・・ うん、そうだ、あたしは助けられたの。それが言いたくて。水無月さん・・・あたしはもうババアって呼んでるんだけど、ババアもユキタも、こんなわたし・・・あたしによくしてくれて、それに気づかなくて、そんなありがたいことに気づくことすらなくて、あの、あれだったんだけど・・・ あたし、分かったの。あたし、頭を撫でてくれないからすねちゃうっていう感じが・・・そういう弱い自分を感じるのが一番辛かったんだっていうのが分かったの。顔の傷はそりゃあずっと辛かったけど、それとは無関係なところで誰かに何かを与えてあげられるようなものが、そういう意志自体が無かったっていうことが辛かったの。ユキタも辛かったんだよね。声が出せないんだもんね。あたしなんかより全然・・・ 全然あれなんだけど、それでもユキタはいつでも微笑んでくれてて、ババアもあたしを元気づけてくれて・・・ あたし、恥ずかしくなったの。恥ずかしいとか、ありがとうとか、辛かったとか、色々・・・ 自分でもよく分からないんだけど色んな気持ちが混ざっっちゃって、なんか・・・ ごめんね、ほんとに分かりにくい話で。あたし、ユキタが出発する前に絶対に伝えたいって決めたことがあるの。ユキタはこれからギリシャに行って、その後のことはあたしには分からないけど・・・ 綺麗なものを見て、手話教室も開いて、可愛い彼女も作って、その人と結婚して子供も作って、優しいユキタのままでいる・・・ そういう、そうなってほしいなっていう感じがあるの。ババアも同じ。あの、あたしはユキタに会えて嬉しかった。ユキタとババアのおかげで変わらなきゃいけないってことに気づいたの。そう、気づけたの。そういう、全部の、全部が・・・ ありがとう。だからユキタ、お願い、」
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