神さまが見えるという事。

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『僕と結婚してください!』 プロポーズが叶った日の夜。 家に帰ると、神さまが僕の脇腹にぐりぐりと体を押し付けた。 『うりうり』 『なんだよ神さま、祝ってくれんのか』 『うりうり!』 『ちょっ、くすぐったいって!』 あまり酒を飲む方ではなかったが、その日は珍しく神さまと飲んだ。 神さまの口元に日本酒を持っていくと、『ん!』と言って飲む。 それが面白くてどんどんと酒を勧めた。 『随分飲むなぁ神さま』 『んっふふ』 神さまがピンク色の頬をして『んふー!』という頃には、しらじらと夜が明けていた。 言葉もないのに、やたら楽しかったことだけは記憶している。 「また飲みたいな、神さま」 「もいもい」 仕事で大失敗した日も、子どもが生まれた日も、神さまはそこにいるだけだった。 僕はそれを喜びもせず、苦にもせず、神さまと一緒に、気の遠くなるような日々を過ごした。 そこまで振り返ってようやく、それを『神さま』と呼んだことは、正しいと気づいた。 「おじいちゃん、分かる?おじいちゃん」 誰かの声がした。 神さまの横に、目頭をハンカチで押さえた女性が座っている。 僕の娘だ。 その横には、まだ幼い僕の孫が、きょとんとした顔で座っていた。 「なぁ、神さま」 「もいもい」 崇め奉っても、せいぜいまんじゅう二つを貰えるくらいだろう。 憎んでもモチモチと躱されるだけだ。 それでも僕は、僕の人生をずっと見守ってくれたそれを、『神さま』と呼んだ。 「ずっと見ていてくれて、ありがとう」 神さまに告げて、僕は満足して目を閉じた。 誰かにとっての神さまが、こうあればいいと願った。
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