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ーーーーその日の夕方。
オーナーの気遣いで夕方に帰れることになった私は持参していた傘を手に職場のビルの前で佇んでいた。
退勤時間に変更があったことを日下さんに伝えるのをすっかり忘れていたせいで当然そこには見慣れた高級車はない。
うーん。家まで歩いてすぐの距離だしわざわざ電話してまで迎えを頼むのもなぁ…
急な事だし日下さん他の仕事入ってるかもしれないし。
これが生まれながらのセレブなら迷わず連絡するんだろうけど、どこまでも庶民の私は自分の事で日下さんに動いてもらうのが本当に申し訳なくて。
「歩いて帰ろ」
たまには歩くのも悪くないと、そう決めて持っていた傘を開こうとした時だった。
「桃華?もう仕事終わったのか?」
聞き慣れた声に勢いよく振り返れば、そこには、ここにいるはずのない彼の姿があって。
「なんでいるの?」
「たまたま…ここの17階で食事をしてて、」
「ふーん…」
珍しく動揺した様子の彼を不審に思いチラッと彼の後ろに目を向けてみる。
そこにはセレブが集うこのビルに相応しい風貌の清楚な女性が立っていて、彼女は私と目が合うと控えめに微笑んでから頭を下げた。
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