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そんなことを考えながら歩いていたとき、すぐ近くからバシャバシャと水を蹴る音がする。
履いていたパンプスがずぶ濡れになるくらいザーザーと雨が降り頻る中、傘もささずに後ろから追いかけて来た彼は私の腕を掴んだ。
「桃華、待てって」
「触らないで」
「誤解するな。あの人は何でもない」
「…別に私には関係な、」
「俺はおまえだけのものなんだって、今すぐここで証明してやるから俺を信じろ」
「何言って…っっん、」
ーーーそれは本当に一瞬の出来事だった。
ずぶ濡れになった彼が私の傘の中に入って来たかと思えば、勢いよく唇を塞がれて。
驚いて思わず傘から手を離してしまうと、途端に頭上からは容赦なく大粒の水滴が落ちてくる。
都内の中心部で、それもサラリーマンや学生達が行き交うこの時間に、目立つのが大嫌いなはずの彼がずぶ濡れになりながら人目も憚らず何度も何度も繰り返し私の唇を奪うものだから完全に注目の的だ。
「はあっ…何考えてんのっ」
「俺はいつだって桃華のことしか考えてない」
キッパリ言い放った彼は、周りの目なんて少しも気にしていない様子で再び私の腕を掴むと自宅のマンションに向かって足を進めていく。
もう傘をさしていることが無意味に思えるくらい、彼も私も全身ずぶ濡れになっていた。
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