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「…うちの父は昔から仕事人間で育児は母親と使用人に任せっきりだった。母はそんな父のことを凄い人なんだと俺と律に毎日のように言ってて」
「そう、なんだ…」
「だから父のことは尊敬していたけど、家にいるときはいつも仕事してるか電話してるかのどっちかで…心のどこかで寂しいっていつも思ってた」
「…」
「口には出さなかったけど病弱だった母も時々寂しそうな顔してて…きっとそばにいてほしかったんだろうな。俺はそんな二人を見ながら育ったから」
彼は恵まれている。
だけど…それがイコール幸せというわけではないんだと、彼に出逢って初めて知った。
一流ブランドを背負う為に彼は小さな頃から英才教育を受けて、したくもない勉強をして。
それなのに興味を持ったスポーツはできなくて…人知れず寂しい思いもしていた。
辛いけど…幼い頃、私が自分の置かれている状況を“普通”だと思っていたように、きっと幼かった彼にとってもそれが“普通”だったんだろう。
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