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芽衣子たちを見送り、干しておいた洗濯物を取り込んでからリビングに戻ると机の上は綺麗に片付いていた。
それを見て、彼の仕事が終わったのだと分かる。
「仕事、随分早く終わったんだね」
今日中どころかまだ陽も落ちていないのに…相変わらず彼は仕事が早いらしい。
「律がすぐにデータを送ってくれたから予定より早く済んだんだ」
「そうなんだ。お疲れ様。お腹空いてるでしょ?すぐご飯の用意するね」
料理をする前、髪を結ぶのは昔からの習慣みたいなものだ。
だから今も、ちょうど手首に付けていたシュシュで長い髪をアップにしようと手櫛で纏めていたんだけど。
「たまには外食するか」
彼のこの一言に、私の手はピタリと止まる。
「急にどうしたの?」
「このところ忙しくて二人で出掛けることもなかっただろ?だからせめて桃華とゆっくり食事したいと思って」
そう言われてみれば…たしかに。
殆どすれ違いの生活を送っている私達は、一緒に夕食を食べることすら稀で。
今日結衣ちゃんを預かる為に休みを取ってくれた分、彼が明日からまた仕事漬けになることは明確だった。
「そうだね。私もそうしたい、かも」
「珍しく素直だな。何が食べたい?」
「高級なとこは疲れちゃうから…気軽に居酒屋でも行かない?」
「居酒屋って?」
「知らないの?嘘でしょ…」
私にとっての常識は彼にとって未知なもので、
彼にとっての常識は私にとって未知なもの。
それでも、それぞれ違う環境で育った私達が出逢い、家族になって…
不思議なことに、巡り巡って今では同じ景色を見ているんだ。
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