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冷蔵庫を物色しながら、考えていた。
俺は名家の御曹司として大切に育てられ、恵まれた環境で生きてきた。欲しいものはすぐ手に入るし、何でも思い通りの人生。
それでも、どんなに恵まれていても、いつも何かが足りないと思ってた。
仕事人間の父は会社にいることがほとんどで、病気がちな母はずっとベッドの上にいて、家族団欒なんて縁のない生活。
今思えば多分寂しかったんだと思う。
今なら分かるけど、あの頃は分からなかった。
だってそんなことにも気付かないくらい、いつも近くに兄がいてくれたから。
胸を張って仲の良い兄弟だとは言えないけど、冷たい兄は俺にだけ優しくて。
だから…今もちょっとだけ寂しいのかもしれない。
兄の優しさを知る人間が増えてしまったことが。
「ちょっと、勝手なことしないで」
俺を追い掛けてキッチンに入ってきたおねーさんが無表情で言えば、再びイラッとした。
…人の気も知らないで。
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