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「おそらくあらかじめ別のパーカーを用意していたんだ」
「用意していた?」
「時短というのはその場ですぐにできるものではない。事前の計画と日々の習慣によって少しずつ身につけていくものだ」
浴室の掃除が終わり、リビングのソファへと腰を落ち着かせた小暮は話を続ける。
「周到に用意された計画。凶器の用意、犯行経路、その後の手順。おそらくずいぶん前から入念な準備が行われていたに違いない」
小暮の足元を丸い形をした自動掃除ロボットが通り過ぎた。ロボットの上にはコーヒーカップが置いてあり、男は目の前で止まったロボットからコーヒーカップだけを取り上げ、優雅に口へと運んだ。
「事前に準備をしていればこんなこともできる」
「パーカーもすべて計画の内だったと?」
「八神春江は静子と真奈美が自分のためにパーカーを買いに行くことも事前に知っていたんだろう。もしくは前々からそう仕向けていたのかもしれない。いずれにせよ八神は犯行後に新品の自分用パーカーが屋敷内にあるということを知っていた。彼女はあらかじめ用意していたパーカーのひもを使って郷田吉之助を絞殺したあと、ひもをパーカーに戻して屋敷へ戻り、自分用に買ってもらったパーカーの入った袋に犯行に使ったパーカーを紛れ込ませた。当日、静子と真奈美が買ってきたものは?」
村田は手帳をめくり、「衣類や食品を中心に大量に買い込んでいます。屋敷の立地もあり、普段から大量に買い込むことが多いようで」と答えた。
「つまりパーカーがひとつぐらい紛れ込んでも気づかれにくい状況ということになる」
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