2. 時短探偵

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「一度抜いたパーカーのひもを再び戻すのは短時間で可能なのか?」  柳が口を挟んだ。 「ヘアピンでもあれば容易に元に戻すことができる、そう時間はかからない。静子と真奈美が帰ってきたあとの八神は?」  村田は手帳をもう1ページめくり、「キッチンにいました。そのあと山下裕子が一度、自分と八神の分の荷物を持って使用人の屋敷に行ってます」 「きっとそのときに八神は山下裕子に頼んでいるはずだ。ついでに自分用のパーカーのひもも処分しておいてくれ、と。これで犯行に使われた凶器は、山下裕子によってごみとして処分されることになる」 「待ってください。屋敷のごみ箱からはパーカーのひもなんて見つかっていません」 「そう、捨ててないんだ。山下裕子はパーカーのひもを取ったが捨てることはしなかった」 「なぜです?」 「彼女はパーカーのひもを使って屋敷のまわりに住みついている野良猫に、首輪を作っていたんだ。八神はそのことを知っていて、山下にパーカーを託した」 「なら凶器は」 「山下が持っていないとすれば、猫の首についているはずだ」 小暮の前をまたしても自動掃除用ロボットが通り過ぎた。小暮はロボットの上に、空になったコーヒーカップを置いた。 「他人の力を使うことは究極の時短と言える。八神はきっと時間を上手く使うことのできる有能な使用人だったに違いない。ただひとつ間違えたとするなら、その時短テクニックを人を殺すことに使ってしまったということだ」  小暮が話し終えると、壁にかけられている時計がゴーンとひとつ鳴った。 「そろそろ息子を迎えに行く時間だ」  小暮は立ち上がって書斎に消えたかと思えば、ものの数秒でカバンを持って玄関へと歩いていく。 「君たちも出てくれ。出ていかないと言っても私は出ていくぞ。時間だからな」  小暮の言葉に、柳と村田は慌ただしく準備をして玄関へと向かった。
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