第一話 躓く作詞家さんと悩むアイドルちゃん 

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第一話 躓く作詞家さんと悩むアイドルちゃん 

その日は、数か月ぶりに聞いたであろう、我が家のチャイム音で目が覚めた。家に用があってくる人間なんて、いなかったからだ。  今は、小説家として活動しているので、家に来る人間がいないわけではないが、編集部の人にはチャイムは鳴らさないようにと、お願いしていたので、すぐにそうではないと思った。  重たい腰を上げ、紙のちらばった床の上をフラフラしながら歩いて、玄関の扉を開けると、そこには久しぶりに見る友人がいた。 「どちらさん?」 「久しぶりだな、元気してたか?」 「なんだ、久瀬くぜか」 「なんだとはなんだよ。久しぶりの再会だぜ、もっと喜んでくれよ湊みなと」 「それで、何の用だよ」 「用が無きゃ来ちゃいけないのかよ?暫くぶりに、この近くを通ったから寄っただけさ」 「そうか、じゃあ顔見たしもういいだろ。俺は寝る仕事があるんでな」 「どんな仕事だよそりゃあ。てことは暇ってことだな上がって行ってもいいか?」 「そういうと思ったよ。いいさ、上がっていけよ。そこまで邪険にするつもりはない」 「それじゃ、邪魔するぜ」  正直な所、誰にも会いたくはなかった。《あの日》以来、人と会うのは極力避けてきたからだ。 「うぉ!なんだよ、この部屋は…紙だらけで歩くところなんて無いじゃないか」 「別に、俺はこれで生活できるし、お前ほどの変わり者じゃなければ、家に寄る人間なんている訳もないからな。あ、でも編集者の人はちょっと困ってたな」 「そりゃあ、こんだけひどいとな。今度めぐちゃんも呼んで、三人で片づけるか」 「おいおい、冗談じゃない。あいつなんて呼んでみろ、掃除する前に説教の嵐だろうし、掃除中もねちねちと言われるだけだ」 「昔は、こんな家じゃなかったんだけどな…」  二階建て一軒家で、一人暮らしをするには、いささか広すぎる家だ。しかし、自分の趣味や仕事をするスペースを確保する関係上、これだけの広い家が、必要だった。その為に立てたにすぎなかった。  それも、仕事をやめた今では無用な部屋ばかりになってしまった。  考えが浮かんでは紙に書いてそのままにしてしまう。生活スペースの至る所に散らばっている、と言った有り様だった。 「そこらへんにある紙は、どうせいらないものだから踏んでも構わない」 「そうはいっても、歩きづらいぜ」 「この部屋なら紙もないし、居やすいだろうさ」
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