総務部長の期待

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二十一才になって間もない五月の終わり、私 水野(みずの) 沙映(さえ)に、新しい就職先が決まった。 私が住んでいる田舎の町では、なかなか名の知れた地元の安定企業だ。 高卒で、たいしたスキルも持っていない私が、まさか採用されるなんて…… ダメもとで、挑戦してみてよかった! 産休に入る人の補充で、三月末までの臨時というのが、残念だけど。 高校を卒業して、県外の会社に就職した。 母の『一度は、親元を離れるべし』という考えと、周りとの競争がなかった事、都会過ぎない場所、高校で学んだ『プログラム』も生かせるし、社員寮もあるし…… そんな、なんとなくな感じで、就職先を決めた。 寮に友達もできたし、会社の先輩もいい人たちばかりだった。 ただ、どうしても仕事である『プログラム』だけは、好きになれなかった。 頭痛持ちになり、眠れなくなり、生理が止まり…… こんなに追い込まれていたなんて、自分でびっくりした。 いや、気付かないふりをしていた。 高校生の時、プログラムの勉強をしていた『情報処理』の時間が私には苦痛だった。 授業で出される課題を、平均の少しだけ上の感じでこなし、検定の前は合格ラインだけを考えて勉強した。 高校生の間はそれでなんとかごまかせたが『仕事』として選んだ以上、それではダメだ。 高校三年間かけて『苦手』を確認した事に、今さら『やりがい』も感じられず『仕事として最低限の事を』とも、割りきれず…… 自分の本心に『気付かないふりをする』という事で、一年半程を過ごしてしまった。
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