第一章 葡萄畑の果て

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 ここはとある港町にある修道院。港町にあるとは言っても、海から離れているために、その香りが届くことは無い閉塞的な場所だ。  その修道院の一角にある葡萄畑。これから新芽が出る時期で、手入れをしている修道士たちはみな忙しそうだ。  ふと、ひとりの修道士が、側に立っている少年に声を掛けた。 「ノア、向こうの方の葡萄の面倒を見てやってくれませんか」  ノアと呼ばれた少年の修道士見習いは、腕いっぱいの籠を抱えたまま頷いて返す。 「わかりました。いってまいります」  肩の辺りで揃えたふわふわの金髪を揺らし、ノアは指示された方向に向かって、葡萄の蔦についたいらない芽を摘み取り、籠の中へと入れていく。  摘んでは入れ、摘んでは入れと言う作業にノアは没頭する。どの芽を残すか、摘むのか、それを判断するためには集中力が必要なのだ。  時偶背伸びをしながら手入れをしているノアが、ふと周りを見渡した。妙に静かで、鳥の声も聞こえない。そして、一緒に作業をしていた修道士の姿も見えず、何よりも奇妙なのは、そんなに広くないはずの葡萄畑が、どこまでも果てなく続いているのだ。  その光景に驚いて思わず籠を落とし、もう一度周りを見渡す。一体何が起こったのかわからぬままに籠を拾い、どこまでも続く葡萄畑を歩き回る。  どこまで行っても誰もいない。何も聞こえない。その事に不安になって泣きそうになったその時、目の中に光を鋭く照り返している何かが見えた。  果ての無い葡萄畑から出るためには、そこに行くしか手がかりが無いように感じたノアは、恐る恐る光の元へと歩いて行った。
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