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ひかりは窓に近づき、てるてる坊主を結んでいる紐をほどいた。
マジックで書いたてるてる坊主の笑ってる顔をジーっと見つめる。
「頼むよ、次はちゃんと役に立ってよ」
てるてる坊主に話し掛けた。
咄嗟に思いついたのだ。お空を晴れにしたい時はてるてる坊主をそのまま、雨にしたい時はてるてる坊主を逆さま、じゃあ、曇りは。へへへ。横、でしょ。ひかりは横向きにてるてる坊主を結び直した。
父ちゃんは曇りが好きって言っていた。だからこうして毎日、横向きのてるてる坊主を窓枠に吊るしておこう。
毎日、曇りだったら、父ちゃん、涼しくて嬉しいだろうから。
横向きのてるてる坊主がゆらゆら揺れる。ひかりはそれを指で突っついた。
横向きのてるてる坊主は、よこてるって名前にしよう。
よこてる頼むよ、毎日曇りにして、父ちゃんがお仕事やりやすいようにしてあげてね。
玄関のチャイムが鳴った。伊川さんだろう。
ひかりは立ち上がった。
写真の中の、母ちゃんと目が合った。
あれれ、なんでだろ? 母ちゃん、昨日よりも笑ってる。
〈終わり〉
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