よこてる

12/12
前へ
/12ページ
次へ
 ひかりは窓に近づき、てるてる坊主を結んでいる紐をほどいた。 マジックで書いたてるてる坊主の笑ってる顔をジーっと見つめる。 「頼むよ、次はちゃんと役に立ってよ」 てるてる坊主に話し掛けた。 咄嗟に思いついたのだ。お空を晴れにしたい時はてるてる坊主をそのまま、雨にしたい時はてるてる坊主を逆さま、じゃあ、曇りは。へへへ。横、でしょ。ひかりは横向きにてるてる坊主を結び直した。  父ちゃんは曇りが好きって言っていた。だからこうして毎日、横向きのてるてる坊主を窓枠に吊るしておこう。 毎日、曇りだったら、父ちゃん、涼しくて嬉しいだろうから。  横向きのてるてる坊主がゆらゆら揺れる。ひかりはそれを指で突っついた。 横向きのてるてる坊主は、よこてるって名前にしよう。 よこてる頼むよ、毎日曇りにして、父ちゃんがお仕事やりやすいようにしてあげてね。 玄関のチャイムが鳴った。伊川さんだろう。 ひかりは立ち上がった。  写真の中の、母ちゃんと目が合った。 あれれ、なんでだろ? 母ちゃん、昨日よりも笑ってる。 〈終わり〉
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加