第1章 セクシーサービス事始め

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第1章 セクシーサービス事始め

「ああ…、すごい、いいよ、向井。…期待通りだ…」 喉にかかったような掠れた青山くんの声。今までの付き合いの中で耳にしたこともないような甘い、欲情を感じさせる響きだ。わたしはそちらに背を向け、目の前のことに意識を集中しようとした。こいつの隠された何かが露わになるのをまざまざと感じて何とも気まずい。 なんだってこんな仕事、引き受けちゃったんだろう。 貧すれば鈍する、とはこのことか。 「最初のリクエスト通りとはいかなかったけど。こんなんでも大丈夫?」 照れ隠しに混ぜっ返すように背中越しに尋ねると、奴は調子に乗ったのか逸る声で前のめりに要求してきた。 「あ、えーと。せっかくだから…。もっと、屈んで。そんで腰持ち上げて、…脚開いて。こっちに…、見せつけるくらい。思いきって」 矢継ぎ早に付け足される注文にわたしは思わず半切れした。 「そんな、姿勢とかまで頭回らない。あれこれ考えながらじゃ作業に集中できないよ。いいの、床ちゃんときれいになんないよ、そんなんじゃあ?」 そっちに目も向けず噛みつくように言い返したら、奴は呆れたような声を出して身も蓋もない台詞を返して寄越した。     
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