第1章 セクシーサービス事始め

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「向井ってこうして会ってると全然無個性でも特長なくもないのにな。文章は無味無臭でなんの味わいもないかすかすだけど。どうしてこうやって普通に話してる時の雰囲気の片鱗もそこに反映できないかね?文体なんか、書いてる奴の個性が抑えがたく自然と滲んでなんぼだろ。どんな事務的な事実を並べ立てただけの記事でもそうだよ。新聞記事だってきちんと読み込むとちゃんと書き手の癖や個性が伝わってくる。よくも悪くも」 「すいませんね、才能なくて」 無味無臭のすかすかって言われた。そこまではっきり言い切るとは、友達って無情なものだなぁ。わたしはやけくそにカクテルを一気に飲み干した。カシス・オレンジ、アルコール度数5%。仕事柄、こういう知識は無駄にある。つまりは口当たりがいいけど酔いすぎない程よいカクテルの種類とか。別にわたしを酔わせてどうにかしようなんて男も全然いないんだけど、周りには。 「変な癖ついちゃったんだよ。最初にお世話になったサイトの運営から個性出すな、そんなの読者には邪魔って口酸っぱくして言われ続けてたから。実際その方が評判よかったし、次に繋がりやすかった」 「うーん、まあ。読んでる人に刺さろうみたいな野心が滲み出てる文章は確かに読みづらいってのはわかるし当然だけど。でもそれは使い分けすればよかったのに。あんた、自分のために文章書いたことあんまりなかったろ。ブログでも書きためたものでもいいから、そういう習慣つけとけばよかったんだよ。我を抑制した文体と自分を表現する文体。後者がわかってなきゃ前者も上手くいかないと思うよ。何を抑えればいいのかわかんないでやってるわけだろ」     
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