第1章 セクシーサービス事始め

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こちらを歓迎してもいない相手に対してだと、学生時代には苦手だからって無理して習得する必要もなかった他人との接触技術がいきなり必要になる。単に用事を切り出すところからもう難関。人が忙しそうにしてるところ、仲間内で楽しそうに盛り上がってるところに割って入るタイミングを図れない。ちょっと突慳貪にあしらわれるとすぐに心が折れてしまいいつまでも引きずる。新人で下っ端なので外回り以外の雑用も多く、絶対的に人員の足りない職場だったから休みも取りづらく何でもかんでもやらされて残業も多かったけど多分ブラックとまでは言えなかったと思う。このくらい結構普通、だったのかも。 だけど碌な研修も受けず行き当たりばったりでいきなり現場に出されて、自社の出版物の説明も満足にできないでいるのを書店員さんたちに見透かされ、白けた眼差しを向けられるのはどうにも慣れなかった。だったら自力で勉強を、と思って売り物の本を真剣に読んでみると、正直こんなもの資源の無駄、いえいえ。 …わたしは力なく頭を振った。これのどこをいい、と強弁すればいいのか。わたし程度のセールススキルでは如何ともし難く…。 なんて考えが脳裏にむくむくと浮かんできてしまった時点でもう駄目だったのかもしれない。わたしがぶきっちょで無能なのは無論否定のしようもない。そこは何とか乗り越えないといけない課題なのは百も承知だ。 だけどそもそもこの商品は真面目に取り組んで世の中に出すべく努力するのに相応しい代物なんだろうか。もしかしたら、誰にも必要とされないし何のために形にされたのかもわからない、誰のせいでもないのに何故かこの世に生まれちゃった謎のごみの素なんじゃ…。     
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