第1章 セクシーサービス事始め

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「あんまり考えてもしょうがないよ。自分とこの製品を好きにならなきゃいけない法なんかないんだからさ。どうしてか、こういう本を必要と思う人もたまにはいるってことでしょ。だったらそれはそれでいいじゃん。割り切らないとやってられないよ」 一度だけ同行させてもらった営業先で、立て板に水の如く口から出まかせの売り文句で言葉巧みに書店員さんをかき口説く華麗なテクニックを見せつけてくれた先輩は、わたしの微妙な賞賛の眼差しを感じてか後でちょっと気まずそうに笑って言った。自分だってこんなものをいいと思ってるわけじゃないんだけどね、と言わんばかりだ。 彼を含む腕っこきの営業何人かは剛の者として鳴らしていたが、様子を伺っていると書店員さんとのパイプというか繋がりが違う。結局こういうのって最後は他人の懐にいかに入っていくか、つまりは人間関係なんだ。定期的に顔を出して楽しく談笑して、まあじゃあ棚の容積は限られてはいるけど数冊くらいはこの人の社の本置いてもいいか(返品効くし)って向こうに思ってもらえるかどうか。それが証拠に人懐こくて調子がよく割り切れるタイプじゃない、ごく普通の人たちはわたしだけじゃなくみんな心が折れてどんどん辞めていった。     
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