第1章 セクシーサービス事始め

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それで油断した、ってこともあるのかも。転職率の異様に高い環境にいると知らず知らずのうちにそれが当たり前のような気がして。口八丁手八丁で他人を丸め込むなんてできない、仕事相手と友達みたいに接するなんて絶対無理。その上黒いものを白いと言い張るのがつらい、せめていいものを他人に勧めるなら不器用でも一生懸命取り組めたと思うのに、と自分に言い訳しながら職場を去った。中途半端に二年余り頑張った挙句の退職だった。 それからどうしよう、と思ったけど特に何の技術もない。営業を二年ほどやったと言ってももう同じ職種は懲り懲りだ。なけなしの経験はその後何の役にも立ちそうになかった。 繋ぎにコンビニのバイト(これがまたコミュ障には意外に難儀な代物だった。自分が店員と口を利いた記憶がないだけで、世間の人は何やかんだとコンビニの店員を相手に世間話をしたりちょっかいを出したり、無理難題を言ってみたり悪意ある当てこすりをしたりするものなんだって痛感した)をしながらわたしは策を講じた。同じ過ちは繰り返すまい。人と接することそのものが主な業務の仕事は駄目。どうせ長くは続かない。 むしろ、誰とも何日も口を利かないでもへっちゃらな仕事を見つけよう。きっとあるはず、ただ黙々と地味に孤独にこなすだけの、人好きな性格なら音を上げる絶対的に退屈きわまりない仕事が。     
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