第1章 セクシーサービス事始め

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単純作業だったら普通、工場とかそういうのを思い浮かべるのかも。でもそれだって多分、上司や同僚、職場での人間関係があるし。それにわたしにはまだ欲があった。編集とか原稿を書くとか、その手のことへの憧れはまだ捨てきれていなかった。就職先を誤ったせいだ、場所が違えばまだ可能性があるはずだって気が何となくどこかに残っていたらしい。 わたしはネットに目をつけた。折しも粗製乱造のキュレーションサイトが雨後の筍みたいに立ち上げられていた頃合いで、ライターの質はそれほど問われていなかった。元編集者ですと詐称して、内容を問わず片っ端から仕事を受けた。単価も安く請け負ったので当初はそこそこの数の依頼が舞い込んだ。 「専門じゃなくて詳しくないことでもネットで検索すれば必ず何かしら情報が拾えるから。それを引っ張ってきて上手いこと継ぎはぎすればいいのよ。下手に自分の視点とか入れられるとかえって使いにくいから。文体もあんまり凝ったりしないで、読みにくくなる。読者が欲しいのはそういうんじゃないの」 何回か話したことのある担当者はそんな風に教えてくれた。やっぱり書くからには自分なりのものを書こう、何か爪痕を残さなきゃいけないと思い込んでいたわたしは、目から鱗が落ちた気がした。それまで採用された記事と突っ返されて没になったものとの差はまさにそこにあった、というのがわかったので。     
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