神様のおくりもの

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「この蛙は神様になる。だからこうやって手を合わせてやるんだ」  かぴかぴに干からびて汚いコンクリートに伸びた蛙に向かって、おじさんは俺にそう告げた。  それは俺がまだ10歳にもなっていない頃で、その見知らぬおじさんを怪しもうとか、無視しようとかも考えつかない、無垢な心を持った少年だった。  言われた通りに手を合わせ、ここ何日か続いた晴天を思い出し、この蛙が命を落としてから振ったであろう今朝の雨を少しばかり憎んだのを覚えている。  周囲は賑わいの声でいっぱいで、その日俺は近くの遊園地に家族で来ていた。  雨上がりの空にできた大きな虹は遊園地の陽気な雰囲気にぴったりと当てはまっていて、俺はそれを見ながら神様は虹の橋で天へ渡ったんだろうなんていう微笑ましいことを考えていたのだ。  大学生になった俺がなぜ今こんなことを思い出しているかというと、ふと天を見上げた時に、ここ最近で虹を見た記憶がないなと気づいたところから始まった。  これは現実逃避からなる思い出補正なのか、地球温暖化の影響が関係しているのか、はたまた俺のただの気のせいか、昔と比べてめっきり見なくなった虹に違和感を覚え、頭を抱えていた。  たまにはこんな風に無意味に考え込むのもいいだろう。  大学に入っても何の目標も夢も持たずに毎日なんとなく生きている今の俺は、自分で言うのもなんだが、人としてあってはならない方向に進んでいる。  だからといって何か変えようとか、挑戦しようとか思えることもなく、ろくに彼女もできずに青い春を俺は自己的に逃しているのだ。  神頼みでもするべきか。  いやいや、神頼みなんて当てにするもんじゃない。  そういえばあの日、遊園地でくじ引きをした時に三等を当てたっけか。  確信を持って言えないが、あの純粋な心からなる合掌の見返りだったのではなかろうか。  もっとも、それは有効期限なしの乗り物の優先券二枚という、いまだに財布に眠っている使う予定の無いものだったが。  4等のお菓子詰め合わせの方がよかったよ。    今日は土曜日。  三連休ということもあり、俺以外の家族は地元の新潟に昨晩から行っており、テスト間近な俺だけが留守番を任されているという悲しい現状がここにある。誰か、慰めてくれ。  昼食を買いに向かったコンビニの帰り道、  我が家の前で倒れたその少女と、俺は出会ってしまった。
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