第一部 第一章:名も無き邂逅

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第一部 第一章:名も無き邂逅

 規模の大小を問わず、部隊の懲罰解体は珍しいことだ。  味方同士の小競り合いを責められた両部隊に所属する騎士達は、はじめこそ威勢よく言い争っていたが、頭が冷えるにつれて不利な状況を飲み込んだらしい。最後には、粛々と命に従った。  部隊同士の衝突は、本来、それほど重く受け止められるようなことではない。  個人の争いが、いつの間にか部隊ぐるみの騒ぎへと発展してしまうのは、よくあることで、いちいち目くじらを立てて責められたりはしない。並び立つ誰かとの優劣を競いたくなるのは、自身の『誇り』とやらを常に訴えていたい騎士たちの厄介な性で、騎士団は彼らの心意気を歓迎すらしている。  しかし、今回は違う。  この事件は、騎士の一途な心が引き起こしたわけではない。  罰を受けた両部隊は、目の前の功に飛びつくために相手を出し抜こうとした。連携して囲い込む指示がでていたものを無視して、それぞれがバラバラに森へと飛び込み、大きな捕り物の締めを誤らせてしまった。  東の狂信国が送り込んだ間諜は、いまだ捕まっていない。  逸った卑しい心根が招いた事態に、万騎を目指す中堅騎士団の上層部は激怒した。一時は、全員の首をはねろとまで喚いていた……らしい。  らしい、とは曖昧な物言いだが、シェムハザにとって騎士団の幹部は雲の上にも近い存在である。根も葉もない噂を継ぎ合わせて、物々しいイメージを作り上げてはいるが、実際に目の当たりにしたことすらない。同じ戦場に立っていても、遠すぎて見えない。知らない人間が怒っているかどうかなど、わかるわけがない。  シェムハザは、渦中の部隊に従軍薬師として所属していた。  事件の一部始終をじっと見ていた。ただ見ているだけだった。黙して語らず、醜い顔で罵り合う同僚の姿を見ていた。さすがに剣を抜く事は憚られたのか、拳同士での野蛮な争いだった。肉がぶつかる音と怒号が森に響き、このザマでは相手が幼児でも逃げられてしまうと、シェムハザは大の男の馬鹿なふるまいに呆れるほかなかった。 「お前にだって、不満があるだろう?!」  殴り合っていた同僚の一人が、冷めた顔で争いの輪から外れようとしているシェムハザを、怒鳴りつけた。
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