第一部 第二章:ダングルベール小隊

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第一部 第二章:ダングルベール小隊

 ロートネーベル市までの行程、ほぼ十日。  多少の感傷に浸りながら、ゆるゆると歩くつもりでいた。無心に大地を踏みしめ続けることで、自分のペースを取り戻し、何もかも忘れることができる。そう、シェムハザは思っていた。  しかし、今、両足は宙に浮いている。 「なんなんだよ……」 「何が?」  馬に揺られている足はぶらぶらと宙に浮いていて、手綱を持った腕に両脇から腰を挟まれている。腿の上に乗っている手の動きに、馬がぴったりとついてくる。 「おかしいって。普通、薬師と荷物は徒歩だろ……」 「荷物も馬に引かせているのに、人が歩くわけがない」  うながされて顔を上げると、大量の荷物が馬車の荷台で揺れている。御者は、正騎士と騎士見習いの少年が二人一組で務めていて、確かに歩いている者は一人もいない――いないのだが、納得できない。 「だからって、なんでアンタの前に俺が乗らなきゃならねぇんだよ……」 「前の薬師殿も、俺の前が定位置だ。他の者は緊急時に馬を駆らねばならんから、危なっかしくて乗せられん」 「……本当に?」  恨めしい気持ちを全面に出して、並走しているマイヤーに聞く。彼は、片方の眉を持ち上げて、強引にしかめ面を作って、こみあげる笑いを押し殺している。 「残念ながら、本当だ」  思いがけない場所で再会した男は、悠々とした足取りで歩み寄ってきて、まるで初めて会ったかのように手を差し出してきた。 「ようこそ。小隊長のマクシミリアン・ダングルベールだ」  目の前に彼がいるという事実を認識する前に、先手を打たれたシェムハザは、なす術もなく握手を交わした。小声だが「よろしく」とさえ呟きもした。完全に、状況に飲まれていた。  そして男は、これまではぐらかしてきた質問の答えを、堂々と求めてきた。  訊ねる様子がごく自然で、なにも含むところがなかったのは、シェムハザにとって幸いだった。「どうだ、観念しろ」とばかりの顔をしていたら、反射的に殴ってしまっただろう。 「名前は?」 「……シェムハザ」  しかし、恐ろしく不機嫌な声は止められなかった。  シェムハザは、この再会を偶然だと思えるほど楽観的な人間ではない。疑念と苛立ちをこめた目で、ダングルベールと名乗った男をにらみつける。認められないとわめき散らすことができれば、どれだけ楽だろう。だが、生活に困窮しているシェムハザには、他に選べる道がなかった。
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