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その奇妙な店は、緩やかな坂の途中にある。
古い木造建築で平屋建て。
店の前を流れる水路は苔むした煉瓦積み。
その水路の上に架った、短いコンクリートの橋を渡った先に、店の入口がある。
店主はきっと、店の外観とよく似た古狸のようなジイ様。
誰もがそう思って店の前を通り過ぎるだろう。
しかし、縁側に座り、物憂げに中庭を眺めているのは学生服姿の少年。
百鬼 柊平。
現在、形式上、この店の主である。
柊平が眺める中庭には、葉の落ちた紅葉が静かに佇んでいる。
その隣には、青々と葉を付けたままの小さな椿。
先日のあの椿の枝だ。
花こそ付けないが、枯れることも無くそこにある。
「柊平、何してんの?」
今しがた散歩から帰ってきたらしい夜魅が、四畳半から声をかける。
「別に。何も。」
「じゃあ、そこ閉めてよ。寒い。」
大袈裟に体を震わせて言う。
黒猫の夜魅は、猫又という妖怪だ。
柊平は、夕闇迫る中庭の寒さを遮るように、滑りの悪くなった古い窓を閉める。
力を入れた右腕が、鈍く痛んだ。
「腕、痛むんだ?」
夜魅が金色の目を細めて柊平を見る。
柊平の右腕には、赤い痣ができている。
それは日が経っても赤いままで、人の掌のような形をしていた。
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