夕焼けは待ってくれない1

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東京湾は夜を迎えようとしていた。 レインボーブリッジはライトアップを始め、屋形船はまるで生き物のように泳いでいく。 行き交う人々の顔は逢魔時のせいで見えない。 (でも、みんなは寄り添い歩いてる……好きなひとと一緒にいるんだ) そう思ったら目頭が熱くなった。 涙を拭い、ふらつく。 慣れていないピンヒールは私を護ってくれなかった。 「う…」 グキッと折れて転ぶ。 手をついて倒れた。 人々が息を飲む。 ちらりとこちらを見ながらも避けるように行き過ぎる。 私はくるぶしを血が出た指で押さえる。 新しく買った美しいプリーツスカートが無残になる。 「…」 今日は交際一年の記念日。 彼が私を呼び出した場所は告白されたベイエリア。 久しぶりのデートでドレスアップした私を見て彼は言った。 「別れよう、優衣」 「え?」 「なんか、優衣って、イメージと違うんだよ」 すると、陰から女性が現れた。 見知った顔。 同じ職場の後輩。 かわいくて仕事ができる。 その後輩が彼の肩に寄り添い、指を絡め合いながら甘えた声で言う。 「新川せんぱぁい」 「……?(なぜここに?そしてその馴れ合いはなに?」 「こうなりましたけど仲良くしてくださぁい」 猫なで声は続く。 「あ、もうムリでしたぁ」 ため3秒くらいで畳み掛けてくる。 「だって先輩は退職したんでしたね~」 私はようやっと喉から言葉を絞り出す。 「…あなたが凄かったからでしょ」 「何のことですか?」 「書類を隠したり、メールで色々流したじゃない…」 「ひどい…あたしのせいですか?」 後輩は嘘泣きっぽい声で言う。 「仕事を辞める決断をしたのは先輩じゃないですか」 彼が後輩を見下ろし、世にも優しい声を出す。 「もういいよ。過ぎたことじゃん」 「うん……でもぉ……」 「行こか」 彼は後輩の肩を抱いて去っていった。
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