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「香水……?」
泉は自分の爪の甘さに気づいたようだった。あんなにつけたのだ。石鹸なんぞじゃとれない。
泉が犯人だと考えれば、ある程度辻褄が合う。傘に穴が開いた日に決まって声をかけてきた理由も、私の傘だけ狙えた理由も、大方推測できる。
犯人であれば当然穴が開いた日はわかる。
そして、泉は私の家に来て、写真を一枚撮っている。あれは私のブラ透け写真などではなく、棚の中身、即ち並べてある傘たちを撮っていたのだ。
不可解な点もいくつかある。それは、目の前の男が解決してくれるはず。
何せ……犯人、なんだから。
「なんでこんなことしたの?」
本当は、信じたくない。否定してほしい。
けど、泉の口から出てきた言葉は――
「ついてきてくれ」
言われるがままについていった先は、なんと書道室だった。
確か書道部は部員がいなかった気がする。だから閑散としているのか。
「ねえ、なんで書――」
「すみませんでしたぁっ!!」
こんなに綺麗な土下座初めて見た。というか初めて土下座された、
「何? つまり、それするためにここに連れてきたってわけ? 確かに誰に見られることもないし、謝罪にうってつけだもんねぇ」
「違う! でもまず謝るのが筋ってもんだろ」
ご大層なこと言うんじゃないよ。
「筋だかドジだか知らないけど、なんでよりによってここなの? あんたに縁もゆかりもないよね?」
「ふっふっふ、知らんのか貴様。最近書道部に一人部員が入ったのだ」
「へぇ。……ってまさか」
「そう! 我こそが部員第一号なりいいいいい!!」
「踏むぞ」
「すんません」
何故こんな変態が書道という気高そうな部活に入ったのかというと、至極真っ当な理由だった。
一つ、ほかの部員にロッカーの中身を見られないため、いかがわしい本や写真の隠し場所として最適。
二つ、体育会系の部活と違って部室点検がないので、いかがわしい本や写真の隠し場所として最適。
真っ当だ。真っ当すぎて吐き気がする。
「そこに俺のロッカーがある。開けてみてくれ」
「セクハラ?」
「断じて違う」
断じられたので一応開けてみることにした。警戒度はMAX。
魔境へ、いざ!
「え……」
出てきたのは、大量の傘だった。
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