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私の傘は全て無事だった。
真相を説明すると、泉は私の傘とほぼ同じものを十八本全部揃えて、それに穴を開けていたのだ。私が持ってきた傘を回収し、予め穴を開けた傘を代わりに置いておく。
時間も費用もかかっただろうに、ここまでやり遂げたのは彼の変態性の成せる業か。
ちなみに、泉が家で撮った写真をどうして見つけられなかったかというと、撮影直後にPCへ送って、スマホ内のは削除したからだそうだ。そういうところは抜け目がない。
そして、犯行動機は
「どうしてもお前を泣かせたくて」
侮蔑の視線を注ぐ。
「違うんだ。あいや、違うとかじゃなくて……本当に強い奴にはこんなん言わないけど、お前正直弱いじゃん。暇さえあれば苦しそうな顔してさ、何をそんなに我慢してんだって不思議に思ったんだ。
何で泣くの我慢してんの?」
今は亡き父親の所為だ。殴られ、泣くと怒鳴られ、また殴られた。
弱さを見せてはいけないと思った。
弱さを見せたら他人に嫌われると思った。
あの怒鳴り声が、今も耳にこびりついて離れない。
けど、
「泣いてもいいんだぞ」
いいのかな?
「いいんだ」
ああ、今だけは、雨が恋しい。目から零れ落ちるこの熱いものを、隠して、洗い流してはくれないだろうか。
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