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私は泉に、今までため込んでいたものを全部吐き出した。
涙が口の堰まで切ったようだ。
母親の話をすると、泉は何故か苦笑した。
「それってさ……」
「キャバクラぁっ!?」
「……多分」
朝帰り、ド派手な化粧、強い香水、酒とタバコの臭い……そして、差し押さえられない家。全てに合点がいく。バイトの金を貸してくれと頼まれたのは、家計が苦しかったから……?
そういえば、私が暴力を受けたとき、いつも庇ってくれた。母親として子供を守るのは当然のことかもしれないけど、自分の危険も顧みずに守ってくれたのはすごく有難かった。
今も守ってくれていたんだ。ごめんね、お母さん。
「それと、さっき言ってた三人組。あいつら、お前のこと悪く思ってないぞ」
「根拠は?」
「あいつらがお前を陰で褒めてるの見たことあるもん。嫌いな奴なら褒めずに陰口言うだろ」
じゃあ、くすくす笑われていたのは? まさか、私じゃない? 何か別のものを見てたってこと?
「笑い方が少し汚いから、誤解するのも無理ないが」
確かに、席替えで皆ワイワイしてたときも、あの笑い方してたような。
つまり、
「私が自意識過剰だったってこと!?」
なんだ。私、人目を気にしすぎて、逆に自分しか見えてなかったんだ。
「そう気に病むでない、若人よ。わしがお主をもらってやろう」
「ありがと」
「え、ちょっ! いやいやいやいや!」
慌てふためく泉を見て、ちょっと満足。思う存分泣かされたお返しだ。
外へ出ると、小雨が降っていた。私は持っていた傘を泉に渡して躍り出た。
「おい、濡れるぞ」
「いーの! 泉も濡れなさい。あ、傘は濡らさないでね」
「五本全部!? 無理です!」
「濡らさずに私の家まで届けてね」
一時的とはいえ、私の大事なものを盗った罰。穴開き傘を返す目的もある。精々処分に困るがいいさ。
「今日は手料理をご馳走してしんぜよう」
「お母さんにも作ってやれよ?」
「もちろん! 明日からね」
雲の隙間から、日が差してきた。狐の嫁入りだ。
「……綺麗」
小雨にしては大きい雫が、頬を伝った。
感動って、こういうことなんだ。
雨を好きになれそう。ちょっとだけ。
涙は止まらずして、心を晴れ晴れとさせた。
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