雨は絶えずして雲を晴らす

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 絶対、泣くもんか。  いかに苦痛でも、いかに感動しても、私はそう思って涙を耐えてきた。  涙は弱さの象徴だ。  シカトされただけで泣く人。映画のお涙頂戴シーンで泣く人。見てて恥ずかしさすら覚える。なぜ人前で自分の世界に入れるのか。弱さを露呈(ろてい)できるのか。私には少しも理解できなかった。  だから私は雨が嫌いだ。そして傘が好きだ。  雨に打たれると、頬に雫が伝って、泣いている気分になる。傘は涙から守ってくれる。  たとえ降水確率ゼロパーセントでも、私は大きめの傘を持って外に出る。  今は梅雨の時期。皆雨具を持って学校に来る。私は徒歩だが、レインコートを着て傘を差すという完全防備態勢で登下校することにしていた。当然その日も、いつもの二点セットで雨対策は万全を期したものだと思われた。  はずだったのに、何故濡れ鼠と化しているのか。  いつもの調子で傘立てから自分のものを抜くと、大きな穴が開いていた。  ぎょっとして周りを見ると、遠くの方で悪意を垂れ流すような下品な笑い声がした。有体(ありてい)にいえば、非常に幼稚な嫌がらせを受けたのである。
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