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嫌がらせが始まる予兆のようなものはあった。恐らく犯人は女三人組。普段からこっちを見てはくすくすとバカにするように笑っていた。
バカにする分には一向に構わないので無視を決め込んでいた。実際クラスでは変人扱いだし、大した能力もないし。彼女たち以外にも私を見下している人は多いだろう。
だがまさか攻撃に移るとは。高校生にもなって嫌がらせをする、その厚顔無恥ぶりだけは評価できる。
正直、応えた。一番大事にしていたものだ。
第一撃は、心に重くのしかかった。
穴の開いた傘なんて、恥ずかしくてとても使えない。レインコートを単体で使っても、制服が中途半端に濡れて気持ち悪い。決意するのに少しばかり時間を要したが、久々に防具なしで、雨の中に飛び込んだ。
髪を濡らし、頬を伝う。衣服に染み込み、指先から滴り落ちる。
やはり嫌いだ。包まれているのに、惨めになる。
「あれ、吉住じゃん」
振り向くと、傘を差したクラスメイトの男子がいた。
「おー、泉!」
泉はどちらかといえばイケメンの部類である。本人もそれを自覚しており、ナルシストキャラを装うときもある。しかし根っからの変態なので、彼を異性として好きな者はいないだろう。
「ずぶ濡れでどうした? お前いつもあんなに重装備なのに」
「いっやー、たまには雨で体を流すのも粋なもんですぜ」
「何のキャラなんだよ。それに、水が滴るのは俺だけで充分だぜ」
語尾に星マークがつく喋り方だった。相変わらずうざったい。
「吉住、お前さ……」
急に真剣な顔になる泉。なんだ……?
「ホント胸ねぇな」
無言で傘にたまった雨水をぶっかけた。
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