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結局、私は魔泉から逃げきれず、見す見す家に連れてきてしまった。
「ほほう。なかなかに綺麗な家だな。新築か」
「築十八年です」
開錠してドアを開ける。このまま素早く私だけが入って、鍵を閉められないものかと画策したが、不躾な男は先に入っていった。
「お邪魔しまーす。あれ、親御さんは?」
「朝まで帰ってこないよ。いつものこと」
淡白な言い方になってしまった。それもやむを得ない。
父親は他界し、母親は夜遊びに夢中。バイトで稼いだ金をせびられたときは家出しようかと思った。大切なものは鍵をかけて保管すれば、学校から帰ってきたら次の日まで一人なのもむしろ安心できる。下手に家に居られるよりマシだ。
玄関の棚。ここにいつも傘を保管している。大事なものなので勿論鍵付き。
鍵を開けると、泉が驚いた。
「何本あんのそれ?」
「十八本」
いつも使うのは一本だけだが、実はストックがあるのだ。だからといってショックが弱くなるわけじゃない。本当にお気に入りのやつだったのに。
不意に、カメラの音がした。
「今何を撮りやがりましたか泉くん」
「シャツが透けたお前の背中」
「消しなさい」
「嫌だ! 透けシャツファイルに入れるんだい!」
「ファイルごと消せ」
ふざけたファイルは本当にあった。抹消して差し上げた。
安い涙を流す泉の横で、ほかにも何かないかスマホチェック。……なんか縛りの強い彼女みたいで嫌だな。
「カメラの音消すアプリあるじゃん。なんでこれ使わなかったの? お馬鹿さんだねぇ」
「あまりの魅力に冷静さを欠いておりました……」
うむ、正直で大変気持ち悪い。
危ないものは大方消してからスマホを返した。泉は変わり果てた我が子(ファイル内)の姿に、マイナスの価値しかない涙を流した。
「私シャワー浴びてくるから」
「のぞ」
「くなよ」
「反射神経先輩……!!」
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