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着衣をすませて洗面所のドアを開けると、泉が待ち伏せのごとく佇んでいた。
「入るつもりなのかこの変態」
「入るつもりですよこの泉」
溜息が出る。
「まあ、いいけど」
「とーぜんですよねぇ? だって俺が濡れたのは誰かさんの所為ですからぁ?」
自分の所為だと思う。
「てか、お前の傘穴開いてたじゃん。なんで雨水たまってたの?」
「手で塞いでた。穴が広がらないように」
「ふーん。大事にしてたんだな」
そう言って泉は私の頭を軽く叩いた。……撫でられた、のか?
よく考えれば、いや、よく考えなくてもおかしくないか? 付き合っているわけでもないのに、何ゆえクラスメイトの男子を風呂にいれなければならないんだ。
傘に穴を開けられさえしなければ、私は変態に捕まる前にさっさと帰っていた。
そういえば、泉はいつ穴の存在に気づいたんだろう。下校中はずっと手で隠していたし、帰ってきてからも棚に並べて即鍵をかけたから見られていないはず。
妙な胸騒ぎがする。何か、大事なことを忘れている気がする。
「あ」
あいつの着替えないじゃん!
泉のお母さんを召喚することによって事無きを得た。
平身低頭する様に、こっちが申し訳なくなった。手間のかかる息子を持つと大変だ。何もしない母親を持つ場合と同様に。
異様に疲れた。もう何もしたくない。
私はベッドに飛び込み、そのまま意識を手放した。
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