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「またか……」
四代目アンブレラが被害にあった。だが私の反応を楽しむためではなかったのか、あの下品な笑い声は初代の被害以降、全く聞こえなかった。聞こえてきたって、私は涙を堪えるだけなのだが。
なぜ毎回柄の違う傘を持ってきているのに、私の物だとわかるのか。それだけが不思議だ。体臭でもついているのだろうか。今度は強い香水でもかけて攪乱させてやる。
ずぶ濡れになったあの日、私は学習した。中途半端に濡れてもいいから、とりあえず湿ったシャツだけは隠すべきだ。
でないと、変態に狙われる。
「レインコート吉住サン」
こういう変態に。
「芸名みたいに言うのやめてくれます? 透け透け下心涙特売セール」
「独特なセンスしてんな」
「なんで傘に穴が開いた日に決まってついてくるの」
「穴開いて落ち込んでんだろ? お前が落ち込んでるの、わかりやすいからさ」
わかりやすい? 弱さを見せることを何よりも避けてきたのに?
「皆の前ではいつもバカやってるけどさ、お前一人のときすげー暗い顔してたりすんじゃん。家庭の事情とかには踏み込むつもりないよ? でもお前がなんか沢山抱え込んでるの見ると、ほっとけない」
泉は眉尻を下げて言った。
「雨の中でくらいは、泣いてもいいと思うぜ」
「……やだよ」
ダメだ。
「やだよ!!」
やめて。
「わかった口きかないで!!」
私はフードを目深にかぶったまま駆け出した。
脅威から、逃げたかった。
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